「真しな理由」
これは憲法判例「神戸高専剣道実技履修拒否事件(最高裁平成8年3月8日判決)」の判決文ででてきたものです。どうでしょう、皆さん読めましたか?なんて読みました?
「まことしな理由」って読めませんか?そう読みました。。
意味は文脈から想像できるのですが、「こんな言葉あるんだろうか?気になる」と思ってしまったせいで次に行けず、どうでもいい部分で時間がとられた記憶があります
同じ場所で引っかかってしまった人のために、何故このような表記をしているかの解説をしていきたいと思います。
正解は「真摯な理由」
初めから読めた人もいるとは思います。ただ「真摯(しんし)」であれば初めから漢字で書けばいいから、このような言葉があってその表現をする必要があるんだなと思い込んでしまいました。
実は「真し(まことし)」という言葉もあるのですが文脈にあいません・・・
裁判に至るまでの経緯と実際の判決文箇所
せっかくなので 「神戸高専剣道実技履修拒否事件(最高裁平成8年3月8日判決)」 がどのような経緯で裁判になったのかを解説します。
剣道などの人と争う技術を身に着けてはならない宗教を信仰していた生徒が、宗教上の理由で必修科目である剣道に参加できないからレポート提出などの措置を認めてほしいと申し出ました。
ところが学校側は、特別な措置を拒否し剣道実技に参加しなければ欠席扱いにすると回答。実際の剣道の授業で生徒は、準備体操や講義を受け、剣道は見学とするもののレポートを作成し提出します(学校側はレポートの受取を拒否)
その結果、生徒は体育の成績で赤点の評価となりました。それが原因で留年することになってしまいます。さらにその翌年も同様となり規則で退学させられることに
そこで生徒は留年処分や退学処分の取り消しを求めて裁判をおこしました。
以下、「真しな理由」がでてくる箇所の判決文です。
代替措置を採ることは憲法二〇条三項に違反するとも主張するが、信仰上の真しな理由から剣道実技に参加することができない学生に対し、代替措置として、例えば、他の体育実技の履修、レポートの提出等を求めた上で、その成果に応じた評価をすることが、その目的において宗教的意義を有し、特定の宗教を援助、助長、促進する効果を有するものということはできず、他の宗教者又は無宗教者に圧迫、干渉を加える効果があるともいえないのであって、およそ代替措置を採ることが、その方法、態様のいかんを問わず、憲法二〇条三項に違反するということができないことは明らかである。
神戸高専剣道実技履修拒否事件(最高裁平成8年3月8日判決)
憲法20条3項は政教分離原則のことです。ちなみに政教分離原則とは、国や地方公共団体が宗教的に中立であるべきと要求する原則
判決文では留年や退学処分は生徒にとって非常に不利益が大きいので、十分に配慮して処分を行う必要があるとされました。今回のケースでは実技履修以外の方法があったこと、そしてその対応をとることが政教分離原則に違反するとは言えないとの判断でした。
理由は2010年の常用漢字改定による追加
検索に検索を重ねて「真摯」を「真し」にしている答えにようやくたどり着きました。
「摯」は2010年以前は常用漢字ではなかったのです!
2010年以前に「真摯」という言葉を認識していたはず。ただ出会った中に公的な文書がなかったということ。公的に近い文書では常用漢字以外は使われませんからね・・・
そして2010年以降の改定で公的な文書でも「真摯」と表現できるようになったのです。
判決文は平成8年(1996年)であるため、常用漢字改定前です。判決文は基本的に原文ママでの表記なので今後も似たような思いをする人がでてくるかもしれません。
最後に
「真しな理由」に混乱して検索で辿り着いた迷える子羊さんたちは納得がいきましたか?
もしそうであればこの記事を書いたかいがあって嬉しいです。
ただ2010年改訂によって新たに追加された漢字は196字です。熟語だとどれほどの数になるんでしょう?同じようにひらがな混じりの熟語に今でも惑わされているのかもしれません
もし身近に別の熟語で疑問に思った人に気付いたら救ってあげてください・・・
【参考】改定常用漢字表(平成22年6月7日)のURL
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/sokai/sokai_10/pdf/kaitei_kanji_toushin.pdf
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